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北海道 登別市

登別地獄谷 「鬼の棲む地獄」みたいな谷を、お湯の前に歩く

駐車場に車を停めて、遊歩道へ少し歩くと、柵の向こうで谷がいきなり口を開ける。岩肌のあちこちから白い湯けむりが上がって、硫黄のにおいが風にまじってくる。登別地獄谷は、登別温泉に泊まるたびに、お湯に入る前に必ず歩いてきた場所なの。今夜つかるお湯が、目の前のこの谷から生まれてる。そう思うと、ただの散歩が、温泉へ向かう道のりの始まりみたいに思えてくる。

谷を歩いて、お湯につかって、湯上がりにまんじゅう。季節が変わっても、この順番だけは守ってきた、はずだったの。

冬の登別地獄谷。雪の積もった柵のそばで、クリーム色のダウンにチェックのマフラーの主人公が黒糖まんじゅうをかじり、黒いダウンにからし色のマフラーの走り友達が、そのまんじゅうを指さして笑う。奥の雪の斜面から白い噴気が上がる

冬2月

雪の谷で、ルールを破ってまんじゅうをひと口

まんじゅうの包みを開けたのは、温泉に入る前だった。夏に私が決めた「まんじゅうはお風呂のあと」のルールを、自分で破った瞬間。だって、雪の谷の前は寒くて、甘いものがどうしても食べたかったの。

2月の朝。冬の北海道の旅の最後の温泉は登別にしようって決めてたら、走り友達が飛行機で来て、助手席に乗りこんできた。雪の季節だから、乗ってるのは、大洗から私と一緒に船で渡ってきた赤い四駆のセダン。登別東ICを下りて、雪の残る温泉街の坂を、タイヤが雪をつかむ感触を確かめながら、ゆっくり上る。助手席の友達は、なぜか「さすが」って得意げだった。

朝10時ごろ、地獄谷の駐車場に車を停めて、すぐ先の遊歩道へ。木の柵の向こうでは、雪の斜面のあいだから白い噴気が上がってた。足もとに雪があるから、今日は入口側の遊歩道で、柵のそばを一歩ずつ確かめながら歩く。雪を踏む音にまじって、谷のほうからも低い音が届く気がした。夏に来た時は、噴気が木道の上まで流れてきたっけ。今日は風が冷たいから、湯けむりがこっちへ流れてくると、ちょっとほっとする。

クリーム色のダウンの前を合わせて、マフラーを鼻まで上げる。それでも冷たい。そう、ここで包みを開けたの。開けたとたん、冷たい空気の中に甘い香りがふわっと立って、もう待てなかった。ひと口かじると、黒糖の香ばしさと小豆の甘さが、冷えた口の中いっぱいに広がった。友達がすかさず「あれ、お風呂のあとじゃなかったっけ」。「寒い日は例外にするって、今決めたの」って真面目に答えたら、雪の上で笑い転げそうになってた。

地獄谷では、地面から湯が湧いて、谷のあちこちで噴気が上がってる。ここから1日に約1万tもの温泉が湧き出すんだって。今夜つかるお湯がどの噴気のあたりから来てるのか、かじりかけのまんじゅうを片手に、友達と指さして当てっこした。根拠はゼロ。でも2人とも、自分の指したほうが正解だって言い張ってた。

柵の向こうを見てると、雪の白さと噴気の白さは、同じ白でもぜんぜん違って見えた。雪は斜面にじっととどまってて、噴気は形を変えながら空へ上がっていく。風が来るたびに見えるところが変わって、「今のほうがよく見える」って言い合ってるうちに、まんじゅうを持つ手のほうが先に冷えてきた。

最後のひと口は、噴気が風で横へ流れるのを見届けてから食べた。包みを丁寧にたたんでポケットにしまってから、駐車場へ戻る。宿に着いたら、まずはこの谷から来たお湯に、肩までつかる予定。雪の道を走ってきた冬の旅の、最後のお湯。そう思ったら、ちょっとだけ鼻の奥がつんとした。

冬の登別地獄谷。雪の積もった柵の前で、クリーム色のダウンにマフラーの主人公が、ひと口かじったまんじゅうを片手に、雪の斜面から上がる噴気の一本を指さして笑う

ストーリー部分はスポットをイメージしたフィクションです。正確な情報は、公式の観光サイトや情報サイトをご確認ください。

夜の地獄谷

10月の夜、紅葉した森の斜面にはさまれた、道沿いの細長い駐車場の白線の中に停めた赤いオープンカー。街灯の明かりと、森の向こうで月明かりに白く浮かぶ湯けむり、星空
10月の夜、湯上がりの牛乳を飲み終えてから、宿から車で地獄谷の駐車場まで上がってみたよ。紅葉の森の向こうで、湯けむりが月明かりに白く浮かんでた。

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名物

わかさいも本舗のおいしいまんじゅう

北海道産小豆の餡と、黒糖や醤油を練り込んだ生地のまんじゅうです。わかさいも本舗の登別東店で買えます。登別に泊まる日は、箱で買って宿の部屋に置いておくのが、私のいつものやり方です。

登別閻魔やきそば

北海道産小麦の平麺に、ゴマの風味が効いたピリ辛のタレと地元の食材を合わせた、登別のご当地やきそばです。地獄谷の鬼たちを率いる閻魔様にちなんだ名前だそうです。麺とタレと地元の食材さえ守れば、お店ごとに独自のアレンジを加えてよいことになっているので、温泉街で食べ比べてみるのも楽しいですよ。

温泉市場の地獄漬け

登別の前浜や近海の海の幸を、特製のヤンニョムジャンに漬け込んだ海鮮キムチです。甘くて、ほんのり辛いそうです。辛い物とお酒が好きな友達が真っ先に見つけて、迷わずお土産にしていました。家で開けたら、ご飯にもお酒にも合ったって、あとでうれしそうに報告してくれました。

見どころ

「鬼の棲む地獄」と呼ばれた火口跡

地獄谷は、日和山の噴火でできた直径約450m、広さ約11haの爆裂火口跡です。泡立って煮えたぎる景色が「鬼の棲む地獄」を思わせたことから、この名前が付いたと言われています。谷のあちこちから噴気が上がり続けていて、晴れた日でも、谷の上だけ白くけむって見えますよ。

湯けむりのそばまで続く原始林

谷を囲む登別原始林は、1924年に国の天然記念物に指定された森で、今は約186haあります。奥へ続く遊歩道には、ミズナラの巨木もあるそうです。木の生えない噴気の谷と、100年以上守られてきた森が、すぐ隣どうしなのがおもしろいところです。

道と場所のデータ

東京からの行き方

東京から大洗港へ
約130km常磐自動車道で、車で1時間半ほど
フェリー
大洗港から苫小牧港へ車ごと乗って、夕方の便で18時間ほど
苫小牧港から
約57km道央自動車道で、車で50分ほど
高速道路のIC
登別東IC道道2号と道道350号で、地獄谷駐車場まで約6km・10分ほど

登別東ICから地獄谷へ

登別東ICから車で
約10分
火口跡の直径
約450m

ICを下りて、道道2号と道道350号で温泉街の坂を上ると、地獄谷の駐車場はすぐです。

谷を歩いたあとは、そのまま温泉街へ下りてお湯へ。車を停めたら、あとは歩く時間とお湯の時間だけです。