本文へスキップ
PROJECT ZQQ
◂ 走破記

走破記 · 2025-10-24

Sea Firefly

Sea Firefly — 走破記

今夜はバイクの鼻先を湾へ向ける。岸の灯りが暗い海の上に、長い光の線を何本も引いていく。料金所でバーが下りて、ポケットを探る——今夜はカードがない。深夜割は指のあいだからこぼれ落ち、私はふくれっ面で正規料金、現金四千円を払って、夜へひとつ息を吐く。頭の中はホイールスピン、心臓はオーバーレブ。それでもラインは外さない。もうひと捻りスロットルを開けて、メーターが暗転して、視線と道がまっすぐ揃う。

その勢いのまま、分岐を見落とした。駐車場の標識が反応する前に流れていって、海底トンネルが空ごと丸ごと呑み込む。「うそでしょ」——声がクロームとタイルに反響する。真夏のキャミとスカートは、真夜中の海の底では思ったよりずっと冷たい。でも私は息を整えて、笑う。長い髪を風になびかせて、胸の内は静かなまま。焦らない。後ろに置いてきた料金所は、もう小さな時間の火花に変わっている。

そこで気づく。駐車場を通り過ぎたなら、帰りのゲートが待っていて、私はもう一度満額を払う——現金が涙に両替されるわけだ。それでも湾の向こう、あの光る標は、私を家へと引き戻しつづける。夜空にひとつ、私の星、海蛍。たとえ通り過ぎても、帰り道でその光をつかまえる。だから夜を光らせたまま、私は流れに乗って、輝きのほうへ帰っていく。

このルートの場所