走破記 · 2025-10-27
ROUTE 1 - ONSEN BREAK
夜明けの芦ノ湖。路肩の薄い霧が、湯けむりの真似をする。赤いオープンと、相棒の黄色いクーペが並走。メーターは落ち着いてるのに、脳内スピードだけはまだ高回転だ。私はまっすぐ前を見て、心の中で大文字を並べる。お風呂。今すぐ。
箱根独特の呼吸みたいな、楽しいワインディング。相棒の車と二台、湯を目指して下っていく。湖畔の細い進入路に、短い桟橋が見えた。霧の縁が白い通路に見えて、私は無意識にステアを寄せる。
お転婆な相棒は、駐車場をスピンターンで確保。……頼むから、公共の場ではやめてほしい。
温泉に着いたのは、7時台の後半。入り口に向かう途中で、またハプニング発生。今度は水たまりに向かって、見事に大転倒。車を降りても、私はとことんドジだ。
フロントで朝風呂の入館をすませる。屋上の「大露天風呂」へ向かう階段は、やけにいい音がする。更衣ロッカーでバスタオルに身を包んで、いざ、露天風呂へ。
縁まで二歩。指先で温度を確かめて、肩まで沈む。硫黄の香りがやわらかく追ってきて、白いヴェールが視界をゆっくり占拠する。芯の寒さが、ほどけていく。これこそ、私が東京から追い求めてきた、今日の白い夢。
「回復、進捗、七割」。「残りの三割は?」。「あなたのひと言で、満たして」。相棒はくすっと笑って、白い水面を指先で弾く。点が跳ねて、消えた。
風向きが変わると、白が割れて、滝の音が遠くに届く。頬がほんのり色づいて、心拍は人の動きに戻った。白の正体は、今はちゃんと、お風呂。霧でも白煙でもない。私はお湯の中で、真面目に決意する。今日はもう、透明には負けない。
上がり湯を浴びて、髪を乾かす。サンダルを履くと、素足がコツ。同時に、相棒のサンダルもコツ。同時って、気持ちいい。今朝のキーワードだ。自販機の前で同じボタンを同時に押して、同じ飲み物が二本落ちる。私は笑って提案する。「じゃんけんで決めよう。あいこでお風呂は、もう無しね」。「もう入ったからね」。二人で笑って、外に出る。白は薄く、空は濃い。
稜線の向こうに、細い線。芦ノ湖スカイラインが、薄く手招きしている。相棒が顎で示す。「次は、青を追おうか」。「白を連れて」。私は真面目に、でも少しだけいたずら心を混ぜて答える。アクセルは、さっきよりもあたたかい音で返事した。
——朝のお風呂で取り戻す、温度。白は味方。